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NEOMの壮大なビジョンの中で、食はどのような位置づけにあるのでしょうか、また、プロジェクトの成功にとってどれほど重要なのでしょうか?
食品セクターは、あらゆる経済において不可欠な役割を担っています。食料安全保障戦略がなければ、国の安全保障上のリスクとなる可能性があり、経済成長にとっての脅威にもつながります。NEOMは未来の国土と経済特区になろうとしています。そのため、食品セクターは非常に重要なのです。厳しい環境条件にある地域が、いかにして食料面で自立・自給できるかを実証することが、その目的です。
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あなたのチームが取り組んでいる世界初の取り組みとは何でしょうか?
砂漠の環境下で食料自給を目指す、世界初の統合システムを構築することです。私たちが行っていることは、科学技術のみならず、規制の観点からも、完全にイノベーションの最前線に立つことになります。気候変動と水不足に直面している世界では、異常気温や干ばつに現在直面している、あるいは将来直面する地域が、食糧を自給できるようにすることが必要です。私たちは、各国が持続可能性に関する厳しい規制を強化する中で、今後世界の主流となる製品やサービスを開発しようとする企業の実験場となることを目指しています。また、気候変動に対応するため、消費者の環境・健康への意識も高まっていることはご存知でしょう。時代に合わない規制を排除した枠組みによって、私たちが目指す目的を実現することになるはずです。
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NEOMは食の安全、さらには豊富な供給を目指しているとのことですが、その意味とどのように実現するのかについて教えてください。
食の安全保障とは、手頃な価格で安全かつ栄養価の高い食品を適切な量だけ、確実に手に入れることができることを意味します。NEOMはこの目標を、まず環境的にも経済的にも理にかなった食料を現地で生産することによって達成するつもりです。そして第二に、水を大量に必要とするなどの理由で、現時点ではこの地域でコスト効率に優れた方法で生産できない種類の食品を、最も持続可能な方法で調達することです。NEOMは、食品を栽培、加工、輸送、流通、消費する方法を通じて、健康と環境を向上させるための新しいアプローチを推進します。人と地球どちらにも資する、最高のフードシステムを実現したいと考えています。
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次世代型の多用途栽培ソリューションと聞くと非常に難しい挑戦のようですが、具体的にどのようなことができるようになるのでしょうか?
私たちは、自然と調和し、砂漠の環境に適した最新のテクノロジーとイノベーションを活用した、新しい食糧生産方法を推進していきます。砂漠環境に適した最新の技術やイノベーションを活用し、水やエネルギーの使用を最小限に抑えながら食糧を生産していきます。これは大変困難なことではありますが、私たちは成し遂げることができると確信しています。食の未来を形作る新しいソリューションを生み出しやすくする、包括的なエコシステムを構築することで実現していきます。
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遺伝子操作はどのように活用され、何を実現するのでしょうか?
私たちは、ゲノムのツールを複数の方法で使用していきます。例えば水産養殖では、家畜化された数少ない種は紅海を原産するものではありません。それにより環境リスクが生じますが、ゲノム情報を利用することで、その目的に最適な形質を選択して、紅海の種の家畜化を加速させることができるのです。さらに、気候変動は世界中の農業システム、そしてここNEOMの砂漠環境にも脅威を与えています。そのため、干ばつや塩害に強い新しい種や品種が切実に求められていますが、私たちは遺伝子編集技術に焦点を当てます。つまり、まず植物のゲノム内にすでに存在する遺伝子の配列を変更したり、発現を制御したりすることを目指します。
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循環型デザインが切り開く、新たな成長の機会とはどのようなものですか?
私たちは、循環型のアプローチにより事業を行うことが、持続可能な開発を実現するために必要なステップであると考えています。循環型経済では、「製品寿命」という概念を置き換えることで、新しい機会を切り開きます。つまり、経済成長と使用する天然資源という関係性を切り離すのです。なぜなら、循環型経済の実現には、サプライチェーン全体を通じて、資源や材料の削減、再利用、再資源化、回収を行う戦略が必要だからです。この戦略は、有機物を貴重な資源と考えるべき砂漠環境では特に重要です。パッケージの再利用と再資源化への取り組みに加え、食品廃棄物を最小限に抑えながら、有機廃棄物を農業資源への転換を最大限推進することに重点を置いていきます。例えば、昆虫のタンパク質から魚の餌といったことなどです。
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植物由来の代用品が手に入るようにするというのは、立派な目標です。NEOMによるイノベーションを活用した事業構想が他の国に追随されることを期待しておられるのでしょうか?
私たちの使命のひとつは、このような(植物由来の)製品の消費を生み出し、そのインセンティブを与えることです。地元だけにとどまらず、地域、そして最終的にはグローバルに事業を拡大していきます。気候変動の影響を鑑みれば、消費者の行動をさらに持続可能なものに変えていく必要があると考えています。
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食品に関する目標や目的を達成するためのスケジュールを教えてください。
すべての目標を達成するのは、2030年頃を予定しています。ただし、主要な食糧生産についてのマイルストーンは、2023年以降に達成する予定です。今はまだ初期段階ですが、2022年中に最初の成果が得られるでしょう。これにより、2023年にNEOMで現地生産を開始する予定です。
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将来の世代に残したいレガシーは何ですか?
人と地球の両方に資する、世界で最も持続可能な食糧システムを作ることです。地球環境危機が進行する中で、地域の食料自給率を確保できるするものです。この分野で築いてきた専門知識とノウハウは知的資本となり、同じような課題に直面している他の地域にも役立つことでしょう。
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NEOMについて、一般的に誤解されていることはあるでしょうか?
NEOMは単なる計画中の未来都市であるという誤解が広まっています。しかし、NEOMはあらゆる角度からそうした枠を超えたものなのです。NEOMは、さまざまな経済的、技術的クラスターにまたがって発展しており、それぞれが非常に具体的な目標と目的を持ち、この偉大なビジョンの実現に重要な役割を果たしています。NEOMのコミュニティでの日常生活はどのようなものだと思いますか?世界中から集まった優秀な人たちと日々を過ごすことになるのです。異なる文化圏からやってきて、さまざまな個人的な生い立ちや職歴を持ち、話題も豊富な方ばかりです。そのため、新しい経験や学び、成長し続ける機会にあふれた、非常に興味深い場所なのです。
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ご自身のプロフィールとキャリアについてお聞かせください。
私の専門は農業工学、細胞生物学、分子植物学です。NEOMに入社する前は、コカ・コーラ社の農産品原料および柑橘類研究を担当するディレクターとして、複合的なグローバル・サステナビリティ・プログラムをいくつか主導していました。それ以前は、マース社で17年間、ラテンアメリカ、アジア、アフリカ、ヨーロッパにおける農業研究プログラムの責任者を務めていました。食品・飲料・食材業界向けの複合グローバル農業プログラムの設計、実施、監督に携わっていました。そこでは、長期的な研究から運用、製品化の実行に至るまで、さまざまな経験を積んできました。
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NEOMの事業としての魅力は明らかですが、ここサウジアラビアでプロジェクトに参加する決め手となったのは何だったのでしょうか?
私はこれまでずっと、持続可能性に関する複雑な課題に取り組んできました。ですから、極端な気候における農業ソリューションを生み出す手助けをしたいと常々思っていました。NEOMの話を耳にしたときから、大胆でワクワクする、しかもやる気に火をつけてくれるプロジェクトだと思いました。食糧生産の新しいアプローチを切り開くという私個人の目標にも合致していました。もちろん、遺伝子、エピゲノム、マイクロバイオームのデータに基づいた予測モデルを開発するチャンスでもあります。これらはすべて消費者に健康的な選択肢を提供することになるのです。こうした気持ちが高ぶるような機会に「ノー」と言うことは難しく、イノベーションとサステナビリティに焦点を当てた何かを一から作り上げるという考えは、とても重要なことだと思いました。